ミンミンと庭の木に止まってセミが鳴いておる。ああ、もうすっかり夏じゃなあ。

ワシ、野村寅三(のむらとらぞう)は縁側を見つめながら思った。

平屋のこの家には、ワシとワシの妻の梅子(うめこ)が暮らしておる。息子たちは結婚し、家を出て行った。

「おじいちゃ〜ん!ただいま〜!」

居間に紙袋を持った孫の圭(けい)が梅子とともに入って来た。圭は老人ホームで働き出したばかりじゃ。こうして仕事がない日は遊びに来てくれる。自慢のかわいい孫じゃ。

圭はさっきまで梅子の買い物に付き合っておった。ワシは足が痛くて遠慮したのだ。

「和菓子屋でおいしそうなお菓子が売られてたから買ってきたんだ。ちょうど十時だし」

圭が紙袋の中から和菓子を三つ取り出す。ワシの目が輝いた。ワシはこう見えて甘いものが好きなのじゃ。

「三つとも違うお菓子じゃな……」

机の上に並べられたお菓子は、どれもおいしそうじゃ。

「おじいちゃん、好きなの選びなよ」

圭がそう言うと、梅子が「選んでください」と言ってお茶を入れに立ち上がった。ワシはお菓子をじっと見つめる。