その瞬間、天李の脳裏には鮮やかな記憶が確かな像を結び立ち現れた。


音にならない叫び声。


視界を埋め尽くす赤。


黒い塊を踏む柔らかい感触。


天李はその全てを味わうようにゆっくりと瞬きをして、ふっと口元を緩めた。


そして、晴れやかな顔で笑った。


「もう、忘れてしまったわ」


斎藤は、そうかと笑った。


土方たちの前であろうと一切の隙を見せない、飄々として掴み所のない男が、救われたようにほっとした顔で笑った。


「俺もだ」