かけがえのないものに、代わりなんてない

薺先輩だって、もっと悲しめばいいんじゃないかなって思いました。
たとえ黒川先輩より悲しみが小さくたって、悲しいのは悲しいんだし、それが我慢する理由には、ならないんじゃないかなって」



薺先輩は、ずっと遠くの方を見ていた。




「あ、あの……出過ぎた真似しちゃいましたよね。
ごめんなさい」

「ううん。別に大丈夫」


「でも、本当にごめんなさい」

「違うの。私、こんなこと言ってくれるの、雅ちゃんが初めてだから戸惑っただけ」
「ありがとね」




薺先輩は微笑みながら立ち上がった。
私も慌てて後に続く。


六月の湿った風が、私の頬を撫でた。