ある週末の早朝,近所を全裸で徘徊していると信じられない光景が目に飛びこんできた.

「引っ越ーし!引っ越ーしっ!!さっさと引っ越ーし!!」


ベランダに身を乗り出した中年の女性が(天使のような歌声と共に)布団を叩いているのが見える.


僕の背中に衝撃が走った.


一目惚れだった.


その日の空はどこまでも高く,

蒼かった.



(~解説しよう~)

彼の名は たかし.

連日ハロワに通う,無職31歳.

ピザとコーラを愛して病まない彼はその肥満が祟り,先日医者に糖尿病と診断されたばかりだ.


そして,早朝にラップを口ずさむ中年の女性の名は幸子.

ご近所からは騒音おばさんと親しまれ,その日も幸子は趣味であり,生きがいでもあるラップを隣人に披露している.

この幸子ノリノリである.


「引越しチェケラッチョ」はそのリズムと音量が重要である.

ラジオのボリュームをマックスにまで解放し,布団叩きを片手に奇声を上げる幸子にオーディエンスは全員総立ち.

幸子のダミ声が閑静な住宅街にどこまでも遠くへ響き渡る.


「 Hey! Yo! Yo!

引っ越ーしっ!

引っ越ーしっ!

さっさと引っ越ーしっっ!!
うぉらぁー!!しばくぞ!

チェケラッチョ」


これは,幸子とたかしの織り成す愛の物語である.


(注)
この小説は過激な性描写や残酷なシーンが含まれます.
18歳未満の方はご遠慮下さい.