二人で岩場に横になる。少しゴツゴツするけれど、背中から海の音を感じる。暖かくて、じっとりとする。自分が自然の一部になった事を感じて深呼吸をする。君も同じ様に同化していた。

 「こんな事したのは初めてだよ。」

 「楽しくない?」

 「ううん、楽しい。ワクワクする。」

 「私、こうなりたいの。」

 「え?」

 「こんな風に自然にそこに居る事。他人に興味なんて持たれない様に。」

 「ごめん、ひなさんに興味持っちゃった。」

 「いいの。興味持って、堂々と話し掛けてくれるのは。でも集団で群がってきたり、コソコソ見られるのは嫌なの。」

 「だから一人で釣りに来たの?」

 「うん、自由になれるから。少しは見られたりするけれど船の上は自由なんだよね。」

 「じゃあ、一人が寂しくなったらすぐ呼んで。」

 「いいの?本当に呼ぶよ?」

 「うん。駆けつける。」

 君は少し微笑んで、小指を差し出す。指切りだなんて子供の頃以来だ。君と指切りして二人で少し笑った。

 「さて、じゃあもう帰るね。朝が早いから。」

 「何時?」

 「5:00出船なの。」

 「うわっ!早いな!」

 「望さんの為に沢山釣ってくるね。」

 君はそう言うと立ち上がって手を取る。立ち上がって道路まで戻ると、君は静かに言った。

 「おやすみなさい。」

 「おやすみ。」

 歩いて行く君を見守りながら、優しい気持ちに浸る。今までこんな事をする女性は居なかった。きっと君には普通のアプローチや手管は通用しない。正直に正々堂々とする意外に手は無いだろう。あの瞳は全てを見抜かれそうで。俺は気を引き締めながらホテルへ戻った。