「ごめん。」

 君は優しく微笑んで髪を撫でてくれる。

 「いいの、求められるのは嬉しいから。少し休んだら一緒にご飯作ろう?」

 「うん。」

 君と生活するのはきっと楽しいし、幸せなはずだ。だって君は優秀だから。特にコミュニケーション能力に秀でてる。でもそれはあまりに自然で、君をちゃんと関わらないと分からない。

 「ひなは凄いね。」

 「え?」

 「ひなはきっと賢い。俺はきっと君に敵わないよ。」

 「…私は…普通にしてるだけ。でも、望さんがそれを言うなら、私はまた独りぼっちになる。敵わないから、逃げる。」

 「ひな。」

 君は腕からするりと抜けて、ベッドを降りる。そしてベランダへ出ていく。

 「ひな、戻って。」

 君を追ってベランダに出る。隣に立って、君の手を握る。

 「逃げない。」

 「え?」

 「逃げないよ。ひなに敵わなかったら、俺も努力する。」

 君はきょとんとして、俺を見詰める。

 「ひなはそのままのひなで。俺が合わせて、変わる。」

 「そんな事言われたの、初めて。」

 君は優しく微笑んで、俺に言った。

 「望さんが最後がいいな。もう、裏切られるのはたくさん。」

 きっと、これから先の人生は大変だろう。ずっと成長し続けなければならないのだから。君はとても真面目で勤勉なんだ。

 「ひなに愛して貰える様に頑張るよ。」

 「…そんな、追い詰めるつもりじゃないもん…。」

 「ひなに嫌われちゃうからさっ。」

 「もう…。」

 二人で顔を見合わせて笑う。こんな風に、君とお互いを分かり合う。俺は君との生活を夢見る。

 「ひな、一緒に住もう。」

 「えっ。まだ会ったばかりで…。」

 「俺は、君がいい。それに、俺達はもう若くないから残りの時間を大切にしたい。」

 君は少し考えて、小さく頷いてくれたんだ。