君は珍しそうに部屋を見ていた。君の前にお茶を出すと、君は少し笑った。

 「ありがとう。」

 「どうぞ。」

 お茶に口を付けると、君は正面を見ながら話し始めた。

 「望さんは、私の事をどう思う?」

 「ひなさんを?ひなさんは綺麗で、ひなさんらしい…かな。」

 「うん、それ自体は全く悪くないんだ。でもね、綺麗って呪われる。」

 「それ、どういう意味?」

 「私は自分が魅力的だって知ってる。でも、同時に妬まれたりするんだよ、それって。同性だけじゃない、異性も。」

 ホテルで君と過ごした日を思い出す。特別扱いを受ける君を横目でジロジロ見る他人の目線を。

 「私が仕事を辞めたのは、呪われ過ぎたから。私はずっと、男性の中で、一人きりで働いてきたの。自分で言うのも変だけど、私はとても仕事が出来て。好きだったの、仕事が。でも、呪われた。」

 「妬まれた?」

 「うん、妬まれた。でも、そんなの気にしない様にしていた。無視してた。椅子に水をかけられても、苛められても、それでも頑張ってた。わざわざ大学二度も行って。」

 「椅子に水?」

 「でも、一番の原因は、私の仕事の成果を横取りされて、取り上げられた事。私、そんな悪意を向けられた事無かった。男性は、示し合わせて私を攻撃したの。私は社会からいらないと言われた。」

 君の瞳から大粒の涙が落ちる。

 「私、心が折れてしまった。これ以上頑張れないって。この国は、生きる価値なんてあるのかなって。」

 返す言葉が無い。君のされた事は簡単に返して良い言葉が見当たらなくて。

 「どうしていいか分からない。苦しいの。私の20年は滅茶苦茶にされて、この先どうして良いか分からない。」

 俺は君を抱き締める事しか出来なかった。君を抱き締めて、涙を拭う事しか出来ない。

 「見ないで。」

 「駄目。ひなさんを見る。」

 「毎日死にたい。苦しいの。助けて。」

 君はきっと暗闇の中で独りぼっち。

 「死なないで。そんな事言わないで。」

 「説明してる。」

 「死なないで。」

 君を離したら、君は消えてしまいそうで。俺はただ、君を胸に抱くことしか出来ない自分を歯痒く思う。

 「抱いて?」

 君は普通に言う。

 「甘やかされて、優しくされたいの。」

 こんなになってもまだ、困っている俺を気遣う君は、何て強いんだろう。こんなに傷だらけなのに、まだ他人を労れるの?じゃあ誰が君を癒すの?

 「じゃあ、甘やかす。」

 君の涙に何度もキスを繰り返す。頭を何度も撫でて、優しく愛する。あぁ、そうか。俺は君を愛してるんだ。

 「俺の事、少しでいい。好きになって?」

 「望さんは好きだよ。」

 「違う、真剣に俺の事考えて。」

 「うん…。」

 「ひなさんが、好き。」

 俺は君に想いを伝える。でも、伝えたい気持ちの半分も君に伝えられない。

 「寝室に行こう。」

 君は静かに頷いて、俺にキスをした。