二人でワインに酔いながら、手を繋いで駅までの道を歩いてく。君は俺を見ないで歩いてた。

 「俺の家でいいかな。」

 「うん、どこでも。」

 「タクシー拾おう。」

 君の手を牽いてタクシーを止める。休日の東京の道は空いていて、直ぐに捕まる。君をタクシーに乗せて乗り込む。

 「神楽坂まで。」

 君は反対側の窓を見てる。これから寝るはずなのに、俺達は別の方向を見ている。堪らなくなって君に声をかける。

 「ひなさん、こっち見て?」

 冷えた、冷たい表情。これが心を閉じた君の顔なの?あの笑っていた君とは別人みたいだった。苦しくなった。とてもとても苦しくて。君の表情が少し緩んで、心配そうな顔になる。

 「そんな顔させて、ごめんなさい。」

 君は、どんなに自分が辛くても、俺を心配するの?

 「そんなつもりじゃなかったの。」

 申し訳なさそうな顔で言う君はとても悲しそうで。

 「どんなひなさんでもいい。見せて。」

 俺は君を抱き締めた。まだ、たった二度しか君と過ごしてない。でも、想いが止められない。

 「着きましたよ。」

 タクシーの運転手に言われて我に返る。料金を支払って、君を降ろす。君の手を繋いだままマンションへと向かう。君は黙って素直に付いてくる。エントランスを抜けて、部屋の鍵を開けて玄関へ滑り込む。

 「ひなさん。」

 俺は玄関で君を抱き締める。

 「ひなさんを見せて。どんなに辛くて苦しくても、知りたい。ひなさんを助けたい。」

 「…望さんは、何を知りたいの?」

 「ひなさんが助けて欲しい事。苦しかった事。全部。」

 君は顔を上げて、俺を真っ直ぐに見る。

 「楽しい話じゃ無いよ?」

 「うん。」

 「それでいいの?」

 「うん。」

 君の頬を撫でて、キスをする。

 「行こう。」

 「お邪魔します。」

 君は静かに靴を脱いで、俺の後を付いてくる。

 「望さんのお家、素敵。」

 「そうかな。」

 「うん、望さんぽい。」

 「ありがとう。ひなさん、ソファに座ってて。お茶淹れるから。」

 「はい。」

 俺は台所で君の為にお茶を注ぎながら自分に驚いていた。でも、同時に君を絶対に手に入れるのだと決めていた。