夜の海ほたるは混んでいた。

 「ここ、デートスポットなのかな?」

 君は回りを見回しながらのんびりと言う。

 「ひなさん、何か食べたいものある?」

 「特には無いかな…。」

 「じゃあ、レストラン行こうか。」

 エスカレーターを登ってレストランへ向かう。少し混んでて、ボードに名前を書く。

 「少し待とう。」

 「その間、展望台観てていい?」

 「いいよ。」

 お店の人に断りを入れて展望台へ向かう。涼しい風と海。君は風景を在るがままに受け止めていた。その横顔はとても綺麗で思わず見とれると、君は不思議そうな顔をする。

 「綺麗だね。」

 「うん、綺麗だ。」

 君の方が綺麗だと言いたかったけれど、恥ずかしくて言えなくて。

 「今回の釣り、こんな事になるだなんて思わなかったなー。」

 「こんな事?」

 「望さんと寝たり、ドライブしたりって事。」

 「嫌だった?」

 「ううん、ただ、予想してなかった。」

 「俺も。」

 「たまには、こんなご褒美があってもいいかなって思ったの。」

 ご褒美だなんて。

 「ひなさん、本当にまた会ってくれる?」

 「え?」

 「俺はひなさんとまた会いたい。」

 「うん、いいよ。海でも言ってた。」

 君は微笑んで小指を出す。

 「指切り。」

 俺達は指切りをする。俺達の信頼はこの小指の分だけ。それがもどかしくて、君の腰を抱き寄せる。

 「お夕飯食べよう?」

 上手くかわされてしまう。君は俺の手を引いてレストランへ戻ろうとする。君は手強い。簡単に抱かせてくれたけど、簡単に俺のものにはなってくれない。俺をその気にさせるのが上手い。

 「ひなさんは、お転婆だね。」

 「そうよ?今頃気付いた?」

 君は何て事無く言う。俺達は若くない。だから色々な経験を積んでいる。だからこそ、君を手に入れるのはとても難しい。俺は手を引かれながら、どうやって君をその気にさせようかと考え始めた。