episode3*


ー 今日から 俺が幸ちゃんを幸せにさせる ー



ー 幸せにさせるって? ー





会社に戻って、さっきの事を、何度も考えてみたけれど
やっぱり私にはさっぱりわからない…。


「どうしたの?元気ないじゃない?」


と隣の席から女性の声。


" 佐藤 しずえ さん " 42歳ぐらいだったかな…確か…

ここで唯一、私によく話しかけてくるひとだ。
すごく愛想もよくて、この人がもし私と同い年だったらきっと、いい友達になれたと思うほど。
仕事でも、とても尊敬しているひと。



「いえ、いつもと変わらないですよ!」

私は、苦笑いして答えた。

「そう?なんかあったら遠慮なく言ってね?よかったらこのお菓子召し上がれ!」

しずえさんは私に、チョコパイをくれた。

「ありがとうございます。」私は喜んで、チョコパイをその場で食べた。

《そうだ!しずえさんならきっとここの事はなんでも知ってるはず!》

そう思った私は、しずえさんに" 海野 翼 "の事を聞いてみる事にした。

「あの、しずえさん。海野 翼ってひと知ってますか?えーと、確か…ここの人だとか…」

あえて、知らなかった口調で聞いてみる。

「あぁ!知ってるよ!最近だよ、入ってきたの。
でも、いつも挨拶程度だけしか、話した事がないんだよねぇ〜…」

しずえさんは、首をかしげる。

「あぁ、でも、すごく感じがよさそうよね!」と最後ニッコリ一言。

しずえさんは、それを言ってまた仕事を始めた。

とにかく、しずえさんにも聞いてみたけれど、これといって
特別な情報を得られなかったなぁ……でも悪いやつではない…みたい?


でもどうせ、
もう話す事もないだろうし、というより" 幸せにさせる " って言ってたけど
まだ出逢ったばっかりなのに一体どうやって幸せにさせる気なの。

馬鹿馬鹿しい… と大きく1つため息をついて。

忘れよ!

と、言いながら この日の仕事中、彼の事で頭がいっぱいで 集中できなかった。


仕事が終わって、自宅近くのコンビニによって
お酒で忘れてやろう!そう思ってお酒を買って帰宅。

帰宅してもまだ、頭の奥底に彼がいる。
それが嫌で、お酒をグイグイとたらふく呑んだ。

22歳で、いまどき1人で宅飲みって…私ぐらいなのかなぁ…
本当だったら仕事が終わったら、友達とオシャレなBARによって1日を楽しんでるのかな。

なんて寂しくて、つまらない人生なんだろ…
こんな生き方したかったわけじゃないのに…

だんだん酔いが回るとともに、また自分嫌いが始まって残酷な過去を振り返って涙が止まらなくなった。


きっとこれからも、本当の友達や恋人なんて出来っこない…
私のそばにいてくれるのは今後も、 感情も何1つない お酒と、タバコぐらいかな…フフッ…。

と苦笑いをする私。

横になって、涙がまぶたから1つ、2つ溢れ落ちて
いつの間にか、まぶたを閉じて 眠っていた。


それから少し寝て、酔いが少し冷めたから
ベランダでタバコを吸う事にした。

スーーッーー。 綺麗な暗い夜の星に1つの煙がもくもくと立つ。

タバコって嫌な事、なにもかもが
口から吐かれていくような感じがするから 吸うようになった。私とタバコは長い付き合いで欠かせないもの。

この時の私はもう、彼の事なんて忘れようとしていた。

なのに、、、、、


" あれ?幸ちゃん? "

隣の住人のベランダから、私の名前を呼ぶ男の人の声とそこから流れてくる
また1つのタバコのモクモクとした煙ー。

横を見ると、 海野 翼 に似た男がこっちを見ている。

ま、まさか…ね… そんなワケ…
と思い、まぶたをこすって、よーく見る。


…………えぇ!?!?なんでここにいるの!?!!?…

私は思わず、叫んでしまった。
それに彼は大笑いした。

「 俺、ここに引っ越ししてきたから、よろしくね幸ちゃん」

ニコッと笑う。

「いやいやいや、なんで隣なんですか!」

まだこの状況をよくわかってない私は冷や汗をかきはじめる。

「だから言ったじゃん、今日から俺、幸ちゃんを幸せにするって。
けど、まさかマンションが一緒になるのは予想外だったなぁ〜」

と彼は私の顔を伺ってクスクスと笑い出す。

絶対、この人私がここに住んでた事知ってたよね!?
でもなんで…知って?…え?本当に偶然なの…?!、、頭が真っ白になった。


「幸ちゃん、暇だからそっち行ってもいい?」

笑顔で問いかける彼。その反面、
状況をまったくもってわかってない私はまた適当に、

「あ?え。はい。え!?」

なんで はいっ、なんて言っちゃったの!?!?私。。。

「やった!じゃあお酒とつまみもってそっち行くね!」

えぇ!?エエッ…!!!!

ど…どうしよう……どうする 鈴木幸!!!!

焦る私と、笑顔でせまってくる海野 翼だった。

ー まさかこの後、あんな事になるなんて ー


episode3* おわり