それは線香花火のような



 山下くんと牧さんに「僕たち食べ物買ってくるから」と軽く別れを告げた。買ったら山下くんなら意図を読み取ってくれるだろう。

 あっさり離れていった彼らと別れ、しばらく彼らとは反対方向に歩いていると、それまで俯いていた清水さんは肩を震わせ、低い声を絞り出した。

「......私のことダサいって思ってるでしょ」

「え?」

「どうせ、男はみんなあの子みたいに薄ピンクが似合う女の子が好きだもんね! 私はあの二人より年上だし、仕事でも先輩だし、可愛いところなんて無いのは知ってるよ!」

 先程まで泣いていたかと思えば、今度は急に逆ギレし始めた。

 彼女は涙声である上に祭りの喧騒の中でも通るくらい大きいので周囲の目が痛い。忙しい人である。僕は「落ち着いてください」と言って彼女をどこか座れる海沿いのベンチに連れて行った。

 汚れていないか確認して、ベンチに座らせた。そしてしばらく無言でいると、清水さんは少しだけ落ち着いたのか、「大声出してごめん」と謝ってきた。

「気にしないでください」

 僕は清水さんを安心させるように笑って、彼女の隣に腰かけた。

「うん......ごめん、なんか、分かっていたけど、いざ目の前で見たらやっぱり辛かった」

「......」

「なんか、諦めついたかも」

 清水さんは、少しだけ悲しそうにふふふ、と笑った。
 
「ありがとう、さっきは。あのままあの子たちと一緒だったら、自分一人じゃ逃げ出さずにきっと醜態晒していたと思う」

「別に、僕は」

 僕はただ彼女の振られるのを今か今かと待っていただけだ。彼女は山下くんに振られてほしいと思っていた。自分のために。

 しかし、彼女に泣いてほしいわけではなかった。ただ、泣くほど彼を思っていたとは思わなかった。

「そんなに好きだったんですか」

「どうだろう。......ううん、きっと違う。山下くんのことは気にはなっていたけど、それよりも、自分が情けない、愛される価値なんてやっぱりない人間だったんだと思ったからだと思う」