祭り当日、僕たちは浴衣で揃えた。清水さんが「絶対浴衣よ!」と聞かなかったからだ。牧さんは薄ピンクの浴衣に髪を結い上げており、清水さんは黄色の浴衣と片方にまとめて下ろしていた。二人それぞれの特徴が出る。僕と山下くんは特に面白みはない暗色の浴衣だ。
僕は昔から祭りが好きだった。夏の夜の祭りの雰囲気に感化されて、まるで学生に戻ったように心が浮き足立っていた。それは他の三人も同じようだった。
山下くんは、無意識にだろうが、牧さんばかりを目で追いかけている。今からどのように彼女と二人で抜け出そうか考えているのだろうか。その気持ちは分からなくも無い。美容室などで着付けやヘアセットをしたのか、いつもの落ち着いた雰囲気はそのままに、磨かれた可愛さというのか、特に際立っている。
彼が彼女に恋をしているのは一目瞭然、流石に清水さんもそんな山下くんに積極的に絡みにいけないらしく、諦めたように後ろから二人の腕同士が軽く触れ合い、また離れていく、そんな二人の背中を切なそうな瞳で見つめていた。
肩越しに二人で顔を寄せて楽しげに話す姿は、まるでほとんど恋人同士のようだ。この間に入り込める者など誰もいないだろう。
(ほんと罪だねえ、贅沢な山下くん)
ふうとため息をつきながら、僕は清水さんがどんなに凹んだ顔をしてあるか、確認したくなった。もう諦めてくれたらどんなに楽なのに、と思って彼女を見ると、彼女は少し俯きがちになり、目頭に大粒の涙を盛り上がらせていたところだった。
(──っておいおいおい、まじで泣くなよ!)
僕は慌てて清水さんの腕を引き、自分の方に向かせた。清水さんは驚いたように顔を上げると、その反動で涙が丸い頬の輪郭を流れていった。
(違う、僕は貴女のそんな涙が見たいわけじゃないんだ)
僕はちょっと微笑んで、
「......清水さん、なにか食べ物でも買いに行きませんか?」
と言った。彼女が断るとは思えなかった。
案の定、彼女は少し悲しそうな顔をして、うん、と頷いた。

