「俺、この祭りで牧さんに気持ち伝えます」
山下くんはついに決意を固めたらしい。最近は、週末二人でも遊びに行っているらしいから、脈なしということはないだろう。牧さんが山下くんのことを「一番仲のいい同期」と思っていなければの話だが。
「ああ、やったれやったれ」
僕は部外者として無責任にふざけた応援したが、山下くんは真面目な顔を崩さずに言った。
「自分だけではなくて、西村さんも、ですよ」
「......は?」
僕は思いもよらぬ答えにぽかんとした。すると、山下くんは訳知り顔で続けた。
「さっきダブルデートって言ったでしょ。女の人たちは失恋した時に隣で慰めてくれる男に弱いんですから、頑張り時ですよ」
そう言った山下くんは、ちょっとだけ生意気ににやっと笑った。西村さんも素直じゃ無いですね、と僕を笑う。
この男は、後輩のくせに最近は一丁前に仕事しているし、先輩にも堂々と話すようになったし、先輩を弄ぶし、からかうし......本当に生意気だ。
うるせ、と言って顔を背けた。彼女を惑わせてる男に言われたくない。
今から失恋前提なのは流石に清水さんに失礼ではないのか、と思ったが、早く気を持たすことをやめて彼女を失恋させてくれ、と願わずにはいられなかった。

