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「西村くん、相談があるの」
海で遊んだ日からおよそ一ヶ月、新入社員の山下くんと牧さんも大分仕事に慣れてきた頃だった。毎日覚えることがいっぱいあり、時には戸惑うこと、注意されることもあるが、二人はその前向きさで着実に成長していた。
先週、一年目の新入社員だけで三泊四日の研修があった。業務に関係する法令や、実地研修、人事評価の仕組み、会社全体の組織計画や、業界全体の動向、今後の展望など、様々な講義が行われる一方、同期の仲を深めるためのレクリエーションなども行われた。
清水さんが気がかりに思っていることは分かる。
研修から帰ってきた山下くんと牧さんの仲がかなり──目に見えてわかるほど──深まっているようだったからだ。
そろそろ察して諦めろよ、と僕は思っていたのだが、今でも山下くんの思わせぶり及び断れなさ及び天然タラシぶりによって三歳年上の先輩を惑わせているようだった。
「でも、山下くん、今でもまだちょっといけると思ってるの。だってLINEも頻度は減ったけどその日のうちに一通は帰ってくるし、電話しようと言ったらしてくれるし、今でも家まで送ってくれることもあるし......」
「へえ、それを聞いたら、山下くんは清水さんにほんとは気があるのかもしれないですね」
自分たちを客観的に見れなくなっているのだろう、それも仕方ないか、と僕はとある一つのことを清水さんに提案してみることにした。
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「つまり、ダブルデート?」
「違うわよ、またあの四人で今度の花火大会に行かないかと思ってるところなんだけど」
昼休み、清水さんが山下くんに誘ってみると、山下くんは意外にもオッケーを出した。
最近の山下くんは、牧さんと何やら良い感じになっていることから、二人で行くと言い出す可能性もあったため、そうなれば清水さんは間接的に振られたことになり、万事不毛な恋愛も終わるのではないかと思っていたのだが。
「じゃあ、決定ね。牧さんも誘ってくる」
清水さんは嬉しそうに微笑んで牧さんのところに行った。
修羅場を作ってしまった、と僕は頭を抱えると、山下くんは何やら思いつめたような顔をしていた。

