「ゆうちゃん!」
「薔子」
「わたし、ゆうちゃんのおよめさんになる!」
「突然どうした?」
「きょうね、ようちえんで、たんざくにおねがいごとをかいたの。わたしは、『ゆうちゃんのおよめさんになれますように』ってかいたんだよ!」

薔子の願いはいずれ叶う。
だって、薔子は俺の許嫁だから。

わからないことは調べないと気が済まない俺の性格は、周りの大人を驚かせた。

高校生になるまで許嫁のことは秘密にしておくつもりだったらしいけど、小学生の俺はすでに、許嫁の意味も、将来は家を継ぐことも、全て理解していた。

ただひとつ

「好き」の意味だけはわからないままだった。


小学校に入学すれば少しは落ち着くと思われていた 薔子の性格は一層高まり、クラスのムードメーカーになった。
みんなに元気を与える太陽のような笑顔に惹かれ、彼女の周りにはいつもたくさんの友達がいた。


でもある時、悲劇が起きた。
その日は台風が近づいていたせいで、雨風が強く危険な状況だった。

一緒に帰ってきなさいと言われていたのに、薔子は「遅くなるから先に帰ってていいよ。友達と帰るから大丈夫」といつものように笑顔で言ってきた。

俺は彼女を何度も説得した。

「危ないから一緒に帰るぞ」
「雨が強くならないうちに、悠ちゃんは帰ったほうがいいよ」
「薔子が終わるまで待ってるから」
「もう! 悠ちゃんは心配性なんだから! 私は大丈夫だってば!」

ニコニコと笑っている彼女が珍しく怒っている。
結局俺は薔子を残して、先に帰ってしまった。