お食事会が無事終わり、時刻は午後八時を回ったところ。

もう少しでメロの魔法が解けてしまう。

薔薇の花園で衝撃の事実を聞かされてから、私は一生懸命昔のことを思い出そうとしたけど、無理だった。

思い出そうとすればするほど苦しくなる。

いろんな人に私の許婚は本当に宗介さんなのかと聞いても、みんな口を揃えて「そうだ」というばかり。
『悠介』という人物は、本当に消えてしまったみたい。

「薔子」
「何でしょう?」
「その話し方、やめてくれない? 兄さんから聞いたんでしょ? 僕との関わりはほとんどなかったけど、兄さんの弟だし、一応君とは近い関係だと思うんだけど」
「そうかしら?」
「釣れないな……君の家の前に『メロ』を置いたのは僕だよ。そうするように兄さんに頼まれていたからね」

メロは元々捨て猫だった。
段ボール箱に入れられて、私の家の前に置かれていたのだ。
それは全て仕組まれていたってことなのね。

「…宗介さんは、悪魔なの?」
「僕にもわからない。じいちゃん曰く、もう少しで力は消滅するらしいけど。そうなったら、メロ——兄さんはどうなるんだろうね」
「元に戻るんじゃないの?」
「さあ? どうでしょうか」
「何よ」
「じいちゃん次第かな」
「どういうこと?」
「じいちゃんは悪魔のトップと友達らしいんだけど、契約をなかったことにするように頼んでみるって言ってた。うまくいけばいいね」
「……まるで宗介さんはそれを望まないように聞こえるけど?」

私の問いにニヤリと笑って、宗介さんはそっと囁いた。

「兄さんが元に戻ったら、君は兄さんを選ぶでしょ? 君には僕を選んで欲しいから、兄さんは猫のままでいいと思うんだ」
「最低ね」
「なーんて、元々君は僕を選ぶ気なんてなかっただろうし。兄さんと君が幸せになってくれたら、僕は嬉しいよ」
「それもどうせ嘘なんでしょ?」
「嘘じゃないよ。これも本当」
「これ『も』って……あなたは悪魔ね」
「うん。まだ、少しだけ悪魔だよ」

これ以上彼と話していても埒があかない。

「おやすみなさい」と挨拶をして、私はその場を後にしようとした。
でも、宗介さんに手首を掴まれてそれはできなかった。