「はい。あなたと契約を結びたくてお呼びしました」
「私と契約? お前が、か?」
「覚悟はできています。お願いです。薔子を助けてください」
「私にどんな利益があるんだ?」
「俺の魂をあなたに差し上げます」
「…いいだろう。お前の魂はうまそうだ」

ニヤリと笑う悪魔。
これが本当の悪魔の微笑み…?

「その代わり、俺を猫にしてください。そして、薔子が生きている間は俺の魂を食べないでください」
「…注文の多いガキだな」

悪魔は面倒くさそうに俺の言葉を契約書に書いた。

「これが契約書だ。よく読んで問題がなければサインしろ」
「真面目ですね。悪魔なのに」
「今どきこっちの世界も上がうるさいんだよ」
「悪魔も楽じゃないんですね」
「ガキに何がわかる」
「わかりますよ。俺も大人の顔色を見ながら生きていますから」
「へえ〜…」

やさしい悪魔さんは、俺が契約書にサインを終えるまで待っていてくれた。

「できました」
「猫でいいんだよな?」
「はい。可愛い猫にしてください。できれば黒猫で」
「本当に注文が多いな、お前」

悪魔は呆れたようにため息をついた。

「…いくぞ」
「待って」

目の前にいる悪魔——弟を抱きしめる。

「宗。父さんと母さんと、薔子を頼んだよ」

俺の身体は光に包まれ、
次の瞬間、『悠介』は消えた。