「俺は天師教。」
「は?何でそんな奴がこんな所に来るんだよ。」

京司はなぜか、自分が天師教であるという素性を、意図も簡単に打ち明けた。
それは、自分の事をちゃんと話さないと、彼とはまともに話もできないと思ったからだった。

しかし、そんな京司の言葉に、月斗は全く信じている様子はなく、ただただ睨み返すだけ。
天師教みたいな偉い人間が、のこのことこんな場所まで来るはずはない、と考えるのが普通だ。

「話をしに。」
「ハ?話?ならもっと近くに来いよ。」

そう促され、京司は月斗のいる牢屋へと一歩また一歩とゆっくり近づいた。

(しまった!)

そう思った時にはもう遅い。月斗の手が鉄格子の間をすり抜け、京司の顔を覆っていた布を破り、はぎとった。
破れた布からは、天使教の顔が露わになる。

「ハッ!お前が天使教?」

その顔を凝視した月斗が、嫌悪感を露わに、思いっきり眉をひそめた。

「ハハハハハ!!俺と変わらないような年の坊ちゃんじゃねーか。それが、天師教様だ神だって崇められてるなんて、笑えるな!」

月斗は突然大声で笑いだし、わざと天師教をばかにするような罵声を京司に浴びせた。
嘘か本当かわからないが、こんな若い男が、もし仮に天使教だとしたら、滑稽な話だ。
老若男女問わず、この国の者が神のように崇めているのが、どこにでもいそうな青年だなんて誰も知らない。
彼らが崇めているのは、尊い姿をした神でなければならないのだから。

「そうだな。」

京司は、そんな月斗の言葉を冷静に受け止め、ただ一言だけそう吐いた。
なぜなら、その事を一番よくわかっているのは、京司本人なのだから。
自分のような人間が、神だなんだと崇められているのはおかしい。それはよくわかっている。

「は?」
「お前の言う通りだよ。」
「…。」

月斗は思わず押し黙った。まさか、こんなにあっさり肯定されるなんて、思ってもいなかったからだ。
普通なら、「お前は死刑だ。」「天使教にはむかうのか。」などと言い、反論するはずだ。
しかし、目の前にいる天使教を名乗る人物は、ただ顔を曇らせうつ向いているばかり。