「ふーん、私には関係ない…。」

そう、関係ないと思い、天音はその御触書に背を向け、家に帰ろうとした。

こんな小さい村から、この国の一番偉い人物、神と呼ばれる者の妃候補を出すなんて、ありえない。
まるでそれは、おとぎ話のような話だ。
天音だけでなく、そこにいる誰もがそう思っていた。

しかし、この瞬間、天音の頭にはおばさんのあの言葉が、ふっと頭に浮かんだ。

『お婿さんもらえばいいのよ。』

「これだ!!」

突然足を止めた天音は、自分の名案に、思わず叫び声を上げた。

(これだ!!これしかない!! )

ついさっきまでは、婿をもらうなんてあり得ないと思っていた天音の考えは、一瞬にして180度ひっくり返ってしまった。

「たく、女のくせに、そんな大声だすなよ。」

小生意気なリュウが、天音を馬鹿にするような目で、見上げている。

「妃!!これだよ!!」

しかし、そんなリュウの言葉は、天音の耳には全く入っていかない。今は、いつものリュウの憎まれ口に構っている場合じゃないのだ。
天音は興奮気味で、また大声をあげた。

「ハ??」

何に興奮しているのかわからない天音を、リュウの冷ややかな目が見つめる。

「おじさん!詳しく教えて!!その先は何て書いてあるの?」

天音は、またおじさんの元へ戻り、興奮気味におじさんに詰め寄った。
これはもしかしたら、もしかするかもしれない!
天音は、このチャンスを逃してなるものかと必死にくらいついた。

「え、えーと、、16歳以上の女性なら、他は問わない。」

おじさんは、天音の気迫に押されながらも、御触書のその先を教えてくれた。
しかし、なぜ天音がこんなに興奮気味に迫ってくるのか、おじさんには全く検討もつかない。
そんな困惑顔のおじさんの横で、天音は満足気な笑みを浮かべていた。

(この条件はクリア。16歳以上なら誰でもいいなんて、余裕じゃん! )

さらにおじさんは、その先の内容を読み進めた。

「しかし、妃候補生には、しばらくの間、城にて修行に励んでもらう。」
「え?」

おじさんのその言葉に、天音の表情が一気に固まった。

うまい話には裏があると言うが、妃になるには、城に行かなければならないという未知のミッションを課せられる事に、天音のさっきまでの余裕は、どこへやら。
一気にパニックに陥っていた。

「そして、最終的にその修行を終えた者の中から、妃は選ばれる。」

おじさんは、その御触書を最後まで読み終え、満足気に腰に手を当てた。

そう、これが天使教の妃募集の全容。
しかし、これだけの少ない情報では、天音も簡単に納得出来るわけもない。