何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

「天音おそーい!!」
「ごめん、ごめん。」

華子は待ちくたびれてた様子で、食堂に姿を現した天音に呼びかけた。

食堂では、夕食時に点呼を必ず取るため、部屋ごとに座る場所が決まっている。
点呼の兵士がテーブルを回って、全員がそこにいるのかを確認するのだ。
そして、その点呼に間に合わなかったものは、自動的に妃候補からは外され、この城を追い出されるという厳しいルールがしかれている。
だから、天音も駆け足で食堂へと向かったのだ。

「何してたのー?」
「また迷っちゃって…。」
「もぉー!さ、食べよ。」

お腹が空きすぎた華子は、さっそくテーブルに並べられた料理に箸をのばす。
天音は不思議な女と出会った事は、何となく言わないでおいた。

「いただきます!」
「あ、ねー、月の印が皇族の象徴の印だって知ってた?」

天音はさっきの彼女の言葉が気になって、二人にも聞いてみた。

「へ?もちろん常識だよ。ね、星羅。」
「…ええ。」

そう、それはこの国の常識。もちろん二人は知っていた。
やはり、この事を知らないのは、天音だけ。
本当にここに来てから、天音は自分の知らない事が山ほどある事を痛感していた。

「そう…なんだ。」
「知らなかったの?めずらしーね。」

華子は、いろいろと知らない事の多い天音を、罵倒することはもちろんなく、ただただ、珍しがっていた。
そんな華子とは対照的に、星羅は冷酷な目を躊躇なく天音へ向けた。

「…どうしてあなたみたいな人がここに?」
「え…?」

星羅が声のトーンを低くし、天音に問う。
天音は、星羅のあまりにも冷たい声に言葉を失った。
星羅は、天音のような、この国の事を何も知らない者が妃候補としてここにいる事が、信じられない、といった目を天音に向けていたのだ。

「私は…。」

天音はそんな突然の問いに、戸惑いを隠せず、口ごもるしかない。その時…。