「ありがとうございます。運んでいただいて。」

りんは、天音をおぶって、彼女らの宿舎の入り口の前まで連れてきていた。
そんなりんに、星羅は丁寧にお礼を伝えていた。
突然倒れた天音だったが、大事には至らず、今はスヤスヤとりんの背中で眠っていた。

「ええねん。」
「ええねん?変な言葉ー。」
「ちょっと、華子!」

自由人の華子は、ここでも本領発揮。初めて会う人でも構わず、忌憚のない言葉を吐く。
そんな華子に常識人の星羅は注意を促すが…。

「ええんや。よう、言われるから。」
「…。」

りんはそう言って、ヘラっと笑って見せた。
星羅は、そんな少し変わった喋り方の男を、じっと凝視した。

「さすが、するどいな姉ちゃん!そう、何を隠そうわいは、天音の知り合いや!」
「いや、天音の名前呼んでたし…。あ、もしかして、天音の彼氏!」

何を思ったか、りんはそんな誰でもわかる当たり前の事を言ってみせる。
そして、それに見事に突っ込みを決めた華子は、興奮して二人の関係について詰め寄った。
華子は、この手の恋愛話が大好物だ。

「んなわけないやろ。一回しかまだ会ったことないんやから。」
「なーんだ。」

しかし、りんからの返答は、華子の想像したものとは違った。
その答えに華子は、つまらなそうに口をとがらせる。

「何や、姉ちゃんも聞きたい事あるんか?」

りんは、ずっと自分の事をじっと見つめる星羅の怪訝な表情に気づき、そう尋ねた。

「…いえ、別に…。」

星羅は明らかに適当な言葉を口にし、その場を収める事に努めた。

「そうか?じゃ、わいはこれで!天音によろしゅうー!」

そう言って、りんは入り口の前に立っていた護衛の兵士に天音を引き渡し、さっさとその場を去って行ってしまった。
まるで、星羅の鋭い視線から逃れるように。

「…かっこいいけど、何か変な人だね。」
「…。」

星羅はなんだか歯切れの悪い、モヤモヤとした気持ちを引きずりながら、彼の去っていく姿をまたじっと凝視していた。