「天音ちゃん。おじいさん大丈夫?」

家を出て外を歩いていると、顔見知りのおばさんが声をかけてくれた。
小さな村では、みんなが当たり前のように顔見知り。
もちろん、昨日じいちゃんが畑仕事中に転倒した出来事も、あっと言う間に村中に広まっていた。

「はい!今はピンピンしてます。お騒がせしました。」

そんな心配顔のおばさんに、天音は元気よく答えた。

(まったく。村のみんながこんなに心配してくれてるのに。当の本人は! )

天音は、じいちゃんの先程の、のほほんとした顔を思い出し、また怒りがフツフツと湧いてくるのを感じていた。

「そう。よかった。もうお年だものね。」
「はい…。」

怒りを何とか抑えた天音だったが、おばさんのその言葉に、声のトーンを下げ、暗い声で返事をしてしまった。
天音もわかっていた。じいちゃんも、いくら好きだって言ったって、毎日の畑仕事はきっとつらいはずだ。
天音だって、じいちゃんに楽をさせてあげたいのは山々。
でも…。

「この村も若い人が減ってしまってね…。」

こんな小さな村に、割りのいい仕事があるわけない。
畑仕事が、この村の主な産業だ。
そのため、若い人は、もっとお金が稼げる町へと移り住んでしまう。

「天音ちゃん。いい人いないの?」
「へ??」

おばさんからの唐突な一言で、天音は、思わずまぬけな声を出してしまった。

「お婿さんもらえばいいのよ!」

突然何を言い出すのかと思ったら、ホホホと笑いながら、おばさんは本当か冗談かわからないような事を言い出した。

…お婿さん!?