何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

「…。」
「例えあんたが本物じゃなくても。」
「え?」

その言葉に微かに京司の目は大きくなった。

「とりあえず死んで。」

そんな彼女の手には、鋭利なナイフが光っていた。

「…俺に恨みが?」

(ここでひるむわけにはいかない。俺は天師教なんだから。)

「まあ、そんな所。」

この少女の顔はまだあどけないのに、何が彼女をそうさせたのだろう…。
京司の頭に浮かんだのは、恐れなんかではなく、そんな彼女の身の上を案ずるものだった。

天師教になってからは、こんな風に人から疎まれるのは日常茶飯事。
ちょっとやそっとの事では、彼は恐れや恐怖を感じなくなっていた。
今まさに、自分が殺されようとしているのに。

ギシッ

その時足音が聞こえた。

「天師教様?またここにいらっしゃったんですか?」

そこに聞こえてきたのは、士導長の声だった。

「じい?」

京司は、少女がいる方向とは逆の方に、首を回した。
そして、もう一度目線を戻すと、少女はもういない。
どうやらこの場に士導長が現れた事で、京司は命拾いしたようだ。

(でも足音も立てず逃げた?そんな事できるもんか?)

『使教徒。』

(あながちウソではないわけか。)