何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

京司は久しぶりに、中庭の池に来ていた。
今日はなぜか、この場所に自然と足が向いた。
しかし、しばらくここで天音には会っていなった。そして、彼女の姿は今日もなかった。
あの日大粒の涙を流していた彼女が、また笑っているか…。それが気がかりで仕方ない。

「天音はもう来ないよ。」
「え?」

京司は突然聞こえたその声に、思わず声をもらした。
それは、この城の中では聞いた事のない、いや、聞くはずのない声。

「あなたは、もう一人になった。」
「子供?」

そう、その声の主は、まだ幼い少女。
この城の中に、こんな子供がいるなんてありえない。そんな目で、京司は彼女をマジマジと見つめた。

「あなたは、どこまでもバカなのね。」

しかしその子供は、子供らしからぬ、落ち着いた声で淡々と話し続ける。
そして、京司を見つめるその瞳からは、敵意しか感じられない。

「何者だ?」
「使教徒。」

京司は、明らかに異質なその子供に、天師教の顔を見せ、彼女に問う。
しかしみるかは、そんな彼に表情ひとつ変えることなく、即答した。

「…。」

京司は目を細め、訝しげな表情で彼女を見た。
彼女の言ったそれが事実か、それとも嘘か…。
しかし、京司にはそれが見極められないでいた。

「天師教、あなたに死んでほしいの。別にいいでしょ?どうせ一人なんだから。」

しかし、彼女が普通の子供ではない事は確か。
この少女は、恐ろしい事をさらりと言って見せる。

「フッ…。」

京司はなぜかそこで、口元に笑みを浮かべた。
こんな少女が、まるで自分の心を読み取っているかのような事を言っている事が、なんだかおかしくなってきた。

「もう終わりにしたいの。」

そんな京司の変化に全く興味がないのか、彼女は淡々と続ける。

「んな事言っても、俺を殺しても、また別の奴が天師教になるだけだろ。」
「…。」
「俺の代わりはいくらでもいる。」
「そうかもね…。でも私はきっかけが欲しいの。」

とりあえず京司は、彼女の目的のわからないその茶番に付き合ってやることにした。
少女は、その幼い顔からは想像もできないほど声は落ち着いて、天師教と対等に話を進めようとしている。

「この国の終わりを見たいの。」

ゾッとするほどの冷たいその瞳が、京司をじっと見つめた。

(こいつ本当に子供か?)

この時初めて、京司は疑った。
その濁った瞳は、何も映そうとはしていなかった。