何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

「お待ちください!」

先を急ぐ京司に、やはり納得のいかない宦官は、尚も後を着いてきていて、しつこく止めようとしていた。

「しつこいなー。ついてくんな!」
「何を言っております。天師教様おひとりで行かせるわけには!」
「帰れよ…。お前だって本当は来たくないんだろ?」
「そんな…めっそうも…。」

京司は、宦官に冷たい言葉を浴びせ、何とか追い払おうとする。こんな奴が付いて来た所で、役に立つはずがないと思っている京司は、なんとか宦官を振り切りたい一心だ。
宦官も宦官で、京司に心のうちを見透かされて、思わず口ごもり、目は明らかに泳いでいる。彼の心の声は、京司にはだだ漏れだった。
しかし、天使教一人に行かせた事がバレたら、自分の身が危うくなる。それだけは何としても阻止しなければならないのだが。

「私が行きましょう。」

そのニ人の言い争いを聞いていたであろう一人の兵士が、彼らの後ろから声を上げた。

「た、辰か…。」

宦官は、彼の声に後ろを振り返り、ごくりと唾を飲み込み、彼の名を呼んだ。
辰は腕の立つ兵士として、城では有名で、もちろんその事を宦官もよく知っていた。

「お前…。」

(この兵士確か反乱軍が来た日にいた奴か…。)
そして、京司もその顔を忘れるはずはなかった。

「わかった。コイツ一人でいい。」

京司も辰がついて来ることには反対はせず、彼一人に護衛を頼むように言った。
とりあえず、この宦官がついてこないなら、何でも良かった。

「…わ、わかった。辰、天師教様をお守りするように。」

宦官も辰ならば、とすんなりと納得した。
そして、その顔は安堵の表情だったのは、言うまでもない。
宦官の表情からは、面倒なことから自分が開放されたという安堵と、自分が巻き込まれては、たまったもんじゃない!という彼の心情は明らかだった。