何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

「なんで、青を不幸にするの…。」

天音は、ろくに夕食に手をつけず、点呼が終わると、そそくさと食堂を出て来てしまった。
そして、どこに向かっているのかもわからず、城の中をただボーと一人歩いていた。


――――私は、青を不幸にしてるの?

ザー

激しい雨の音だけが、城の中に響く。

「…そうだ…。天使教さんに会いに行かなきゃ…。」

天音が小さくうわ言のように、つぶやいた。
青の事は、いくら考えても今は答えが出ない。
やっぱり、今度月斗に会った時に聞くのが一番いい。今はそう思う事にして、次に進まなければならない。

今、もう一つやらなければいけないのは、天使教に、じいちゃんの元へ帰れるようにお願いする事だ。

「…こんな所で何をしている?」

そう思い直した天音の背後から、今では聞き慣れたあの低い声が聞こえた。
そう、今はもう、彼の声に驚く事はない。

「辰さん?」

天音が振り返ったその先に居た辰のその表情は、明らかに怪訝なものだった。
その理由は、なぜこんな所に天音がいるのか?という事だ。
どうやら、天音は考え事をしてるうちに、城の奥の方へと迷いこんでしまったようだ。
本来なら、こんな城の奥の方に、妃候補が立ち入る事は、許されてはいないはずだ。
そんな天音が辺りを見回すと、確かに周りの景色は見慣れないものばかり。

(もしかして…。)

「辰さん!天師教さんに会いたいんだけど、どこへ行けばいいかわかる?」

天音は、思わず名案と言わんばかりに、声を荒げて辰に詰め寄った。
それは、この城の兵士の辰なら、きっと自分よりも天使教の事に詳しいに違いないという天音の考えからきたもの。

「天師教に…?」

辰は、まさか天音の口からその言葉を聞くなんて、思ってもみなかったのか、眉をひそめた。
なぜ、自分にそんな事を聞くのか?
いや、それよりも、天音は天使教とあんなに親しく話していたはずなのに…。
…ナゼ?

辰には訳が分からない事だらけだ。