「でも士導長様に、ダメって言われたんでしょ?」


華子は、がっくりと肩を落とし、落胆した様子で部屋へと戻って来た天音の話を、なぐさめるように優しく聞いてあげていた。

「うん…。」

意気揚々と、士導長の元へと向かった天音だったが、しかし、彼女の願いは、士導長には聞き入れてはもらえなかった。

『お願いします!外出させてもらえませんか?5日、いえ、4日でいいんです!!』
『外出?』

士導長は怪訝そうな顔で、天音を見た。

『じぃちゃんに、会いに行かなきゃ…。』
『ダメじゃ!』

いくら優しい士導長だからって、もちろんそんな天音の単なるワガママにしか聞こえない願いを、聞き入れてもらえるわけなどない。

「当たり前でしょ。」

今日も、窓際で静かに本を読んでいた星羅が、呆れた声で二人の話に割って入ってきた。
何だかんだ言って、星羅も天音の話をいつもちゃんと聞いていてくれている。
しかし、そんなわがままを簡単に士導長に言ってしまう常識のない天音に、今日という今日は、怒りを通り越して、呆れるしかない。

「まあ、そうだよね。」

華子も今回ばかりは、星羅に同感で、苦笑いを浮かべていた。

「じぃちゃんに、会わなきゃいけないのに…。」

天音が、消え入りそうな声で小さくつぶやいた。

「天音、急にどうしちゃったの?おじいちゃんに何かあった?」

ここの所の天音の様子を、心配に思っていた華子は、もしかして、おじいちゃんに何かあって、天音はこんな事を言い出したのではないのかと考えていた。

「じいちゃんに、何かあったのかはわからない…。でも、今村に帰らなきゃいけない気がするの…。」

しかし、それはただの予感にすぎない…。

「…何で今?」

確かな事は何もわからないと言う天音に、華子も困惑するしかない。
しかし、天音の切羽詰った様子に、華子も心配しないわけにはいかない。