何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】


「あ…。」

その時、青がおもむろに声を漏らした。

(あの、香りだ。)

「天音!こっち!!」

すると突然、青が今までにない弾んだ声で叫びながら、天音を追い抜き走り出した。

「え!ま、まってー!」

天音も慌てて、青の後を追いかける。
青は、そんな体力がどこに眠っていたのかと疑うほどの全速力で駆けて行き、天音もそれについて行くのがやっとだ。

「はぁ、はぁ、ここ…?」

天音は息を切らしながら、青になんとか追いついた。
そして、青が足を止めたその場所を見渡して、天音は思わず息を飲んだ。

「うわー!すごいね!」

そこには、目を見張るような、一面の花畑が広がっていた。
その美しい花は、天音が今まで見たことのない花で、暗闇の中で白く輝いて見える。

「この花は月下美人。夜にしか咲かない花で、姉さんが好きな花…。夜にしか咲かないから、この場所にこんな花が咲いているなんて、知ってる人はほとんどいない穴場なんだ。」
「すごーい!素敵だね!」

そして、その花畑の隅には、ポツンと一つのお墓がたたずんでいた。

「青、お姉さんと二人っきりで話したいでしょ?私はこの辺探検してくるね。」
「うん。ありがとう。」

天音は気を利かせ、青を一人残し、その場を離れて行った。