「よし!誰もいない。」
人々が寝静まり、周りがシンとした中、天音は青の部屋の扉の外を確認し、そう小さく口にした。
もちろんこの計画には、華子と星羅の理解も必須。
何とか二人を説得し、夜に部屋を抜け出す了承を得ていた。
そして、その天音の後ろに立つ青の手には、この城の裏門の鍵が握られていた。
天音は、何故その鍵を青が持っているのかはわからなかったが、今はほとんど使われていない裏門がある事を青に聞いて、昼間になんとかバレずに、その場所を見つける事ができた。
今ではすっかり地図の読めるようになった天音は、青にもらった地図を頼りに、その場所を探り出していた。
あとは、見張りの兵士に見つからないよう、進むだけだ。
「天音、手を握ってくれる?」
「え?」
「…少し、怖くて。」
天音の後ろから聞こえてきたのは、か細い青の声だった。
彼が心細くなるのも、無理はない。彼はずっとあの部屋の中にいて、外に出るのは久しぶりに違いない。
足がすくみそうになるのも当然だ。そんな思いを察し、天音は後ろを振り返り微笑んだ。
「そうだよね。大丈夫!私がいるから!」
そう言って天音は、力強く青の手を握った。
(最後に外の土を踏んだのは、いつだっただろう…。)
青はそんな事を思い出そうとしたが、もうハッキリとは思い出せなかった。
いや、思い出したくなった。
なぜなら、それは決していい思い出ではないからだ。
「行こう。」
「うん。」
天音のその掛け声で、青は現実に引き戻され、天音に答えるようにつないだ手を強く握り返した。

