何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

「…アイツには帰る場所がある。俺とは違う。」

(天音と俺は違う…。いや、違う…。
俺と天音は同じなんだ…。)

天音に妃になって欲しいなんて言えるわけがない…。
彼女をこの城に、閉じ込めておけるはずなんてないのだ。

「そうや!天音は村から来たっちゅうてたな。」

りんは、黙りこくってしまった京司を気遣い、そう言って話題を変えた。

「ああ。」
「天音は、ずっと村で育ってきたんかなー。」

りんは、昨日辰から聞いた話が、どうも引っかかっていた。
それもまた、パンドラの箱の底に眠っていて、触れてはいけないものかもしれない。
そう思いながらも、りんはやはり、自分の好奇心を抑える事は出来ない。

「ああ。幼い頃から村で育ったって。」
「…。」

今度は変わって、りんが急に黙りこくった。
りんは、何かを考え込んでいるように見えたが、あのお調子者の彼が黙っている姿に、京司はすぐに我慢ができなくなった。

「何だよ。急に黙って。」
「…天音の記憶は…。」

そして、りんは急に真面目な顔つきになり、ポツリとつぶやいた。

「え?」
「いや、こっちの話や。今日は、京司と話せてよかったわ。」

りんはそう言って、またいつものように、ニッと人懐っこい笑みを見せ立ち上がり、大きく伸びをして見せた。
その姿は、自由にこの町を走り回る野良猫のようだ。と京司は密かに思った。

「わいは、天音が妃になると思うで?ピンときたんや!わいの直感はよう当たるで。」
「…。」

そう言ってりんは、雲ひとつない空を見上げた。
それを見て、京司もつられるように、青く眩しい空を同じように見上げた。