「じゃあ、辞めればいいんちゃうん?」

そんな京司の悲痛な思いに、りんは何ともあっけなくそう言ってみせて、視線を京司から町へと移した。

「…。」

京司は、簡単にそう言ったりんを、ギロリと睨み付けた。


――――簡単に言いやがって。


それができないから、今まで苦しんできた。
だから誰にも言わなかった。
言ってもどうにもならない事くらいわかってる。
もちろんその思いは口にしなくても、りんには伝わっていた。

「ハハ、冗談や!そんな怖い顔せんといて。」

りんはそう言って、京司のその苦しみを吹き飛ばすかのように、大きく笑った。
そして、りんもわかっていた。
京司がその運命から、簡単には逃れられないことを…。

「なー、京司はまだ天音に言ってないんやろ?自分は天師教やって。」

いつの間にか当たり前のように、彼を京司と呼ぶようになったりんは、空を見上げて、何の気なしに聞いてみた。
京司の話を聞いて、少し触れてみたくなった。
そのパンドラの箱に…。

「好きでやってるんじゃないんで!」

京司は皮肉を込めて、拗ねた子供のように、空に向かってそう叫んでみた。

「ブハハ。面白い奴やな。なんでや?天音に妃になって欲しくないんか?」

その答えにりんは思わず吹き出した。
隣に座っていたのは、やっぱり自分と同じ、ただの普通の青年だった。
そしてりんは、京司の気持ちに何となく気づいていた。
だから、わざと少しからかうように、そう言ってみた。