次の日

「…。」

京司は、城の前にある石段に腰かけて、ボーっと町を見ていた。
この頃は、城を抜け出すのも手慣れたもので、今日も時間を見つけ抜け出してきた。
昨日あんな事があったと思えないほど、この町は平穏だ。
人々はいつものように広場を行きかい、子供達の笑い声が聞こえる。
それが、この町のいつもの光景だ。

「ホンマに自由奔放やな。」

その声の主は、京司の事を見つけると、当たり前のように京司の横に腰掛けた。
その行為に、もちろん京司は何も言わなかった。

「なんだ。お前か。」
「ええのか?こんな所で油売ってて。」

京司もりんが隣に座る事に、今はもう何の違和感も感じなくなっていた。
りん特有の人懐っこさが、そうさせているのかもしれない。

「お前だって、見てただろう。誰も俺が天師教なんて気づかない。それに、城の奴らだって、俺がどこに行こうが、これっぽっちも興味なんかねーよ。」
「ふーん。」
「俺は、ただの飾りなんだから。」

京司はどこか寂しそうな目を、また町の方へとゆっくり向けた。
その時ばかりは、さすがのりんも茶化す事ができずに、その横顔をじっと見つめていた。
やはり、昨日月斗が言った事を、今もまだ京司は気にしているのだろうか…。

「俺だって好きで天師教になったわけじゃない…。」

そして、京司は我慢できずに、ポツリと本音を漏らした。
彼が誰かに弱音を吐いた事なんて一度もなかった…。
そう、その思いは胸に閉まってきたはずなのに…。

りんが目の当たりにした、天使教の本当の姿は、なんともちっぽけなものに思えた。
誰が想像しただろうか。みんなに崇められ、何不自由なくあの城でぬくぬくと暮らしていると思っていた人物が、そんな事を言うなんて。