「でも、妃になったら、帰れるの?」

しかし華子は、そこで、そもそもの単純な疑問を口にした。

「え?だめなの?」

そう、天音の単純な脳は、そんな事を1ミリも考えていなかった。
妃になったその後の事など今まで考えた事はなく、妃になったら村に帰れると信じてやまなかった。

「ま、でも、きっと妃になったら、おじいちゃんや村の人は大喜びだね。」

そんな天音をフォローするように、華子が優しく天音に微笑む。

「うん!そしたら、ちゃんと帰れるように天師教さんに頼むよ。」
「え…。」

天音が何の気なしに、口にしたその言葉に、星羅は目を大きく見開いた。

“天師教”その言葉に大きく反応したのだった。

「天音…。」
「ん?」

星羅は自分を落ち着かせるように、静かに天音に語りかける。

(ここで取り乱すわけにはいかない。)
しかし星羅は、自分の鼓動が、いつもよりも早く脈打っているのを嫌というほど、感じていた。

「天師教がどんな人か知ってるの?」

手に汗にぎる星羅には、この言葉を天音にぶつけるのが精一杯だった。

「へ?知らないよ?」


(やっぱり…。)


その瞬間、星羅は一瞬で血の気が引くのが、自分でもわかった。
やはり、どこかでわかっていた。その警告音が鳴る意味を。
だって彼が天師教だって知っているなら、彼の名前など知るはずがない。

聞きたくなかった。だってそれは…。