ついに天音が旅立つ時、時刻は夕刻。
天音は、この日もいつものように、何だかんだ家の仕事をこなしているうちに、いつの間にかこんな時間になってしまった。
村の入り口には、村人達全員が、天音の見送りに集まっていた。
「さ、主役の登場だー!!」
満を持して、リュウのお父さんが、みんなの前に天音を招き入れた。
「おっまたせー!!」
そこへ天音がいつものように、元気よく登場した。
「なんだよ。いつもと同じ服じゃん。」
しかし、そこに現れた天音はいつもとなんら変わりのない姿。その姿を見て、リュウがいつものようにチャチャを入れるが、明らかに寂しげでトーンの下がった声までは、隠せなかった。
「うん!」
天音が新しく作ってもらった服は、まったく飾り気のない、いつもと同じただの白い布で作ったワンピースだった。
天音は贅沢という言葉を知らない。持っているのは、白のワンピースと、畑仕事をするつなぎだけ。
天音は、このワンピースが、一番自分らしくいられる事をわかっていた。 だから、いつもと同じこの服を、仕立て屋のおばさんにお願いをしていたのだ。
「ホッホッホ。天音らしいの。」
「その服が一番似合っておる。」
天音の意図をちゃんとわかっている、じいちゃんと村長がそう言って、褒めてくれた。
天音はその二人の言葉を聞き、満足気に笑って見せた。
「もう夕暮れだよ。」
「本当に大丈夫か?一人で?」
村のみんなが天音を心配をして、声をかけてくれる。
無理もない。始めて一人で村から出る女の子が、こんな時間から出発するなんて、誰だって心配する。
「大丈夫だって!!」
しかし、天音は、みんなの心配をよそに、いつもと変わらず、元気いっぱいの笑顔でそう答えた。
この国の主な移動手段は馬車か馬。そのため、村の人が長距離用の馬車を手配をしてくれたため、近くの大きな町までは、夜通しそれに乗って行けばよいだけ。

