何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】


「あなたは、誰のために歌うの?」
「え…?」

城の中を歩いていた星羅の背後から、見知らぬ声が聞こえ、後ろを振り返った。

それはデジャブ?

「誰…?」

星羅の背後に立っていたは一人の女。
フードを深く被って、いかにも怪しい佇まいから、妃候補でない事は容易に想像できた。

「天師教のため?」

その女は当たり前のようにそう尋ねた。まるで全てを知っているかのように。

「誰なの。答えて。」

さすがいつも冷静な星羅は、簡単にうろたえたりしない。
しかし星羅は警戒し、それ以外の言葉は発しようとはしなかった。

「天音…動くわよ。」

しかしその女は、星羅の質問には答えずに、どんどん話を進める。しまいには、その名前を簡単に口に出してみせた。
まるで自分が、何者かわかってるでしょう?といわんばかりに。

「あなた、能力者ね。」

そして星羅は確信していた。

「能力者ね…。そう呼ばれる事もあるけど、私はあなたと同じよ星羅。」

全てをお見通しのその女はもちろん、星羅の名も知っていた。
そう彼女は全て()()を知っている。

「天音、面白いでしょ?」
「…。」

何を言っても無駄だと思ったのか、星羅は口を固く閉ざした。

「そんなに身構えなくても、取って食ったりしないから、安心して。あ、あなたにも教えてあげなきゃね。」

星羅は警戒したまま、その女をじっと見つめていた。
掴み所のないこの女と、まともに取り合っていいものか…と…。

「今日あなたの思い人に会えるわよ。」
「え…?」

彼女はどこか面白そうに、少しだけ口端を上げる。しかし、その目は全く笑ってはいないのが、不気味さを醸し出している。

しかし、星羅には彼女が何を言いたいのか、その言葉の真意は何なのかは分からない。

「…反乱はどうやったら止まると思う?星羅。」
「…何が言いたいの?」

脈絡のない彼女の問いに、星羅は耐えきれず、眉をひそめるばかり。

「答えが知りたければ、今日の授業の後、町の入り口に来ることね。」

そう言ってその女は星羅に背を向けて、去って行った。