「あなたは、誰のために歌うの?」
「え…?」
城の中を歩いていた星羅の背後から、見知らぬ声が聞こえ、後ろを振り返った。
それはデジャブ?
「誰…?」
星羅の背後に立っていたは一人の女。
フードを深く被って、いかにも怪しい佇まいから、妃候補でない事は容易に想像できた。
「天師教のため?」
その女は当たり前のようにそう尋ねた。まるで全てを知っているかのように。
「誰なの。答えて。」
さすがいつも冷静な星羅は、簡単にうろたえたりしない。
しかし星羅は警戒し、それ以外の言葉は発しようとはしなかった。
「天音…動くわよ。」
しかしその女は、星羅の質問には答えずに、どんどん話を進める。しまいには、その名前を簡単に口に出してみせた。
まるで自分が、何者かわかってるでしょう?といわんばかりに。
「あなた、能力者ね。」
そして星羅は確信していた。
「能力者ね…。そう呼ばれる事もあるけど、私はあなたと同じよ星羅。」
全てをお見通しのその女はもちろん、星羅の名も知っていた。
そう彼女は全て全てを知っている。
「天音、面白いでしょ?」
「…。」
何を言っても無駄だと思ったのか、星羅は口を固く閉ざした。
「そんなに身構えなくても、取って食ったりしないから、安心して。あ、あなたにも教えてあげなきゃね。」
星羅は警戒したまま、その女をじっと見つめていた。
掴み所のないこの女と、まともに取り合っていいものか…と…。
「今日あなたの思い人に会えるわよ。」
「え…?」
彼女はどこか面白そうに、少しだけ口端を上げる。しかし、その目は全く笑ってはいないのが、不気味さを醸し出している。
しかし、星羅には彼女が何を言いたいのか、その言葉の真意は何なのかは分からない。
「…反乱はどうやったら止まると思う?星羅。」
「…何が言いたいの?」
脈絡のない彼女の問いに、星羅は耐えきれず、眉をひそめるばかり。
「答えが知りたければ、今日の授業の後、町の入り口に来ることね。」
そう言ってその女は星羅に背を向けて、去って行った。

