何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

そして次の日

「天音……。」

辰は村の入り口で天音を待っていた。きっと彼女は来てくれるだろうと信じていた。
そんな辰には、確信に近い何かがあった。今この反乱を止められるのは、彼女しかいないと。あの人の娘である天音だけだと。

「アレー？一番乗りがおった！」

しかし、そこに現れたのは、辰の待っていた人物ではなかった。

「何者だ。」
「わいは、ただの一般町民。反乱軍が来るっていうから、見学しに来たんや。おっさんは…その格好からして、いや、どっからどう見ても兵士やな。」

そこに軽快に登場したのは、りんだった。
りんもどこから仕入れたのか、反乱軍が来るという、極秘情報を掴んでいたのだった。
そんなりんは、いつものようにヘラヘラと笑いながら、辰に近づいていった。
しかし、そんなりんに辰は身構えた。ただの一般町民が、そんな極秘情報を知っているはずがないのだ。

「で、あんたは何しに来たん？あんた一人にこの反乱止められるんか？」
「止めなければ…。」
「それは、国のために？」

りんの表情はいつの間にか、笑顔から真顔にすり替わり、辰に鋭い視線を送る。

「ああ…。」

辰は静かに頷いてみせた。

「んな簡単にいくんかなー？」

しかし、りんはまた、いつものような呑気な声色に戻り、空を見上げた。

「彼女はきっと来る。」

辰はそう自分に言い聞かせるように、ポツリとつぶやいた。

「…やっぱり天音…か…。」

りんがまた、密かに口元に笑みを浮かべた。
りんは、しっかりと聞いていた。先程、辰がその名をつぶやいていた事を。彼もまた彼女に何かしら関わりがある人間なのは、明らかだ。