何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

「反乱…。」

星羅は一人、いつものその部屋で、考え事をするように、窓の外をぼーっと眺めていた。

『どうしてみんなケンカするんだろう?』
『うーん』
『そうだ!星羅の歌を聞いたら、きっとみんなケンカ止めるよ!』
『そうかな!』

それは、遠い昔の記憶…

「♪ ~♪~♪」

すると星羅は一人の部屋の中で、小さな消え入りそうな声で、自然と歌を口ずさんだ。それはあの頃よく歌っていた歌。彼が好きだと言った故郷のあの歌。

(なぜだろう、もう、歌う事なんてないと思っていたのに……。)

パチパチパチ

すると、歌を終えた星羅の耳に突然、けたたましい拍手が飛び込んでくる。

「え?」

星羅は、まさかそこに人がいるとは思わず、勢いよく後ろを振り返る。

「歌上手いね!そんなに驚かなくても。私だよ。」
「華子…。」

部屋にいないと思っていた華子が、いつの間にか戻って来ていたようだ。

どうやら華子は、星羅に気づかれないように、そーっと部屋に入り、星羅のその口ずさむ歌声を聞いていたようだ。

「星羅がこんなに歌上手いなんて、知らなかった!」

華子は興奮気味に、星羅に向かってそう言った。
そう、華子はわかっていた。自分がいる事がわかったら、彼女はきっと歌う事を、すぐやめてしまうだろう。だからこそ、星羅にばれないよう、そっとその歌を聞いていたのだった。
星羅の歌声は、いつまでも聞いていたくなるような、そんな素敵で人を魅了する、歌声だったから。

「…ただ口ずさんでいただけよ…。」

星羅は素っ気なくそう言って、視線を華子からそらした。

「口ずさんだだけでこんな上手いなんて、本気で歌ったらもっと上手いじゃん!!」
「…。」

星羅の歌声に魅せられた華子は、尚も興奮気味に星羅を褒めちぎった。
褒められる事に慣れていない星羅は、下を向き黙ったまま。これもまた星羅の照れ隠しなのだろう。

「誰のために歌ってたの?」
「え…。」

華子の口から出たその質問に、星羅は思わず顔を上げてしまう。

「どうせ男じゃないの!」

しかし、やっぱり、華子は華子だ。
悪戯っ子のような顔でそう言ってニヤニヤと笑い出した。
どうやら、特に深い意味があるわけではなく、華子はこの手の恋愛話が本当に大好きのようだ。

「何言ってるのよ。」

そして星羅は、いつものようにクールに返すだけで、まともに取りあおうとはしない。

「またまた!照れないでよー。」
「そんなわけないでしょ。」

そして、このやり取りがこの後、しばらく続いた事は言うまでもない…。