「私のお母さんを知っているって人に会ったの…。」
天音は辰と別れた後、当初の予定通り、青の元へ足を運んでいた。
そして、青にさっきの事を話してみようと思い、真っ先に口を開いたのだった。
青だってお姉さんの事を話してくれた。だから青になら相談できると思った。
「お母さん?」
青はその言葉を不思議そうに聞き返した。
「私にはお母さんも、お父さんもいない。私ね、捨てられたの赤ん坊の時に…。」
青なら、きっと真剣に聞いてくれる。そう天音は確信していた。…だから真実を話した。
「そう…だったんだ…。」
青は少し寂しそうに天音を見つめる。
「別に寂しくないよ。私には、私を拾って育ててくれた、じいちゃんがいるし!でも…。」
天音は分かりやすく目を伏せた。
いくら強がってみせても、やっぱり、心のどこかに燻るそのわだかまりが消える事はない。
「その人は私のお母さんを知ってるみたいで、なんでかわからないけど、私に反乱を止めて欲しいって。」
「天音は、自分の母親の事知りたくないの?」
「知りたくなんかない…。私を捨てた人の事なんか…。」
しかし、天音のその気持ちだけは、頑固として譲らないものだった。
青はそんな天音の言葉にじっと耳を傾けた。
「自分を捨てた母親の知り合いの言葉は、信じられない?」
「…。」
天音は、下を向いたまま何も答えられなかった。
わかっている。彼はただ、母親の知り合いなだけ。天音を捨てた張本人ではない。
「僕も両親を幼い頃、亡くしたんだ。」
今度は青が自分の事を話し出した。
「そう…なんだ。」
この間はお姉さんの事を聞いたが、まさか青も両親がいなかったなんて…。
「それからは、姉さんと2人だった。でも、姉さんはいつも優しくて、僕の母親変わりだったんだ。」
「そっか。」
青がお姉さんの話をする時は、穏やかな顔になる。青が本当にお姉さんの事が、大好きだった事がよくわかる。

