何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】


『反乱によって多くの血が流れる。』

その時天音は、なぜか辰の言葉を思い出していた。

「誰かが死んだら、悲しむ人がいるのに…。」

そして、今度は天音の口から、自然とその言葉がこぼれ落ちた。

「お母さんの事抜きにしても、ただその人は、天音に協力して欲しいだけなんじゃないの?」

青は天音の言葉を聞いて、また、元の穏やかな表情に戻っていた。

「…どうして私なんかに。」
「天音。私なんかって言わないで。君には他の人にはない素晴らしい所が、たくさんあるんだよ。」
「え…。」

天音は、青にそんな風に面と向かって褒められて、ポカンと口を開けて固まった。

「なんでかわからないけど、もしかしたら、その人もそんな天音の魅力に気づいてるんじゃないかな?」
「…そんなはず…。」

そんなはずない。彼と出会ったのはつい先日の事。

『変わってないな。不満があるとそうやって口を尖らせて下を向く癖。』

(そんなはずない…。私は赤ん坊の頃に捨てられたんだから…。)

天音は心に浮かんだその疑問を、慌てて消し去るように、そう自分に言い聞かせた。


―――なんであなたがそんな事知ってるの?


「…君の母親にそっくりだ。」
「またその話…。私にお母さんはいないって…。」

天音はもう聞きたくないと言わんばかりに、また目を伏せた。
自分には母親なんていない。
そんな話はもう聞きたくなんてない……。