何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

「自分を捨てた母親の知り合いの言葉は、信じられない?」
「…。」

天音は、下を向いたまま何も答えられなかった。
わかっている。彼はただ、母親の知り合いなだけ。天音を捨てた張本人ではない。

「僕も両親を幼い頃、亡くしたんだ。」

今度は青が自分の事を話し出した。

「そう…なんだ。」

この間はお姉さんの事を聞いたが、まさか青も両親がいなかったなんて…。

「それからは、姉さんと2人だった。でも、姉さんはいつも優しくて、僕の母親変わりだったんだ。」
「そっか。」

青がお姉さんの話をする時は、穏やかな顔になる。青が本当にお姉さんの事が、大好きだった事がよくわかる。

「でも、姉さんは殺されたんだ…。」
「え…。」

青は力一杯唇を噛みしめ、その顔は、先程の穏やかな表情から一変した。
天音はその事実に、言葉を失うしかなかった。
青のお姉さんは、病気や何かで亡くなったのだろうと思っていた天音の考えは、簡単に打ち砕かれた。

「それから僕は独りになった。」
「…。」

その話の結末は、やはり悲しいものだった。そして、青の表情も悲しみに満ちている。
誰だってそうだ。大切な人が病気ならまだしも、殺されたなんて知ったら…。
天音は青にかける言葉が見つからない。