「…それは、私が選ばれた何とかだから?」
また不機嫌そうに、天音は下を向いたまま、そう言ってみた。
それはまるで拗ねた子供のように。
『そう、そして、石は選ばれし伝説の少女と共にある。』
そんな天音の脳裏に浮かんだのは、かずさに言われたあの言葉だった。
きっとこの兵士も、かずさの言ってた、おとぎ話みたいな話をどっかで聞いて、それに感化されてしまったのだ。などと勝手な想像を膨らませていた。
しかし正直この話はもう、うんざりだった。
(石なんて知らないって言ってるのに。)
「止めるなんて、そんなの私には無理に決まってるでしょ。だって、こんな小娘の話を聞くわけないでしょ。それに…みんな不満があるんでしょ…。私がその不満何とかできないし!」
「反乱によって多くの血が流れる。」
自分には、そんな事はできっこないと、辰に訴えかける事しか、天音にはこの場を回避する方法が見つからない。
しかし、辰は全く引こうとはせず、簡単には納得してくれそうもない。そして、正論を振りかざす。
「わかってるよ。そんなの間違ってるって。だからあなたが!」
「私は、今はこの城の兵士だ。何を言っても反乱軍には届かない。」
「だからって、私みたいなただの田舎者が言って聞くと思うの…。」
天音は、また口を尖らして、だんだんと声は小さくなっていく。
この人には、何を言っても言いくるめられてしまう…。
(どうしてこの人はこんなに…。)
「ハハハ。」
すると、突然今まで怖い顔でしかめっ面だった辰が、口元に笑みを作って笑った。
「へ…?」
「変わってないな。不満があると、そうやって口を尖らせて下を向く癖。」
「え…。」
―――なんであなたがそんな事知ってるの?
「…君の母親にそっくりだ。」
「またその話…。私にお母さんはいないって…。」
天音はもう聞きたくないと言わんばかりに、また目を伏せた。
自分には母親なんていない。
そんな話はもう聞きたくなんてない……。

