「莉子様。お部屋に案内しますので、こちらへどうぞ。今日はもう遅いですから、お泊りください」

「明日になったら絶対帰りますから」

「今夜はごゆっくりされていってください」

丁寧な口調で低めの声。
この、神谷さんって人の声、どこかで聞いたことがある気がする。
どこでだっけ。
これくらい特徴がある人だと、忘れそうにないんだけどな。

「あの、私たちどこかでお会いしたことありませんか？」

なんて、急にこんなこと聞くなんて変だったかな。
神谷さんは温厚に微笑んでいるままで、ゆったりと頷いた。

「えぇ、ございますよ。
お互いに、今とは少し違う風貌でしたが」

やっぱりそうだ。
どこで会ったんだっけ？
思い出せそうなのに思い出せない。

とにかくこの声に聞き覚えがあるんだよな。
失礼覚悟で聞くしかない。

「ごめんなさい、私覚えてなくて…。
どこで…？」