『・・・入れ』


 俺は廃工場をグロックの銃口で指し示し女を促す。

女は愛想笑いを浮かべたまま頷き、ゆっくり工場の入り口の方を向き直し入って行く。


「あれ、何の機械かなぁ?」


女は構内に入るなり、目に飛び込んできた大袈裟なチェーンに吊られた機械を指差しながら、相変わらず止めない愛想笑いを浮かべ聞いてきた。


『・・・やめろ』


「え?」


『俺にそうやって笑いかけるな・・・・愛想笑いを浮かべるなら命乞いをしろ』


俺はグロックを女に向けたまま、出来る限り俺の感情が外に出ないように言い放った。


「ペンキ屋・・・アタシ愛想笑いなんかしてないし、命乞いをする気も無いわ」


 女は突然真剣な顔で真っ直ぐに俺を見ながら言った。


「ペンキ屋・・・アタシは貴方と過ごせる事が楽しくて笑っていたの」


『馬鹿かお前は?!』


「何度も言ってるでしょ?アタシは馬鹿よ」


『死ぬ事はわかっているんだろう?』


「わかってるわ・・・貴方に殺されるのね?」


女の真っ直ぐな視線が俺を貫く。

真っ直ぐと見据え、決して外す事の無いような視線が俺を激しく動揺させる。


 ジャリッと音が響く。

埃だらけの構内で、俺が左足を引いた音だった。

 俺はたじろいだ。

女の言葉にたじろいだ。