―――――ペンキ屋

「―――ここで降りるの?」


 女が伏せ目がちに問い掛けて来る。

俺は表情を崩す事無く黙って頷く。

 女は一瞬俺の顔を覗き込むようにコチラを向き、少し諦めたように作り笑いをしながら助手席のドアを開けて、シートに手を掛けながらゆっくりと車を降りた。

俺は女が車を降りて、助手席のドアを閉めるのを見届けると、吐いて出る溜息を押し殺し、運転席のサイドポケットからグロックを取り出し車を降りる。


「淋しい所だね・・・工場だったのかな?」


『・・・さぁな、俺はココがこうなってからしか知らねえ』


「こういう所なら・・・誰も来ないね。・・・ね?ペンキ屋」


 敷き詰めた砂利が所々剥げたり削れたりして、水溜りが出来ている道を歩きながら、女が相変わらずの愛想笑いを浮かべ聞いてくる。

俺はそんな女の言う事を聞き流す。


 迷い?


 馬鹿馬鹿しい気持ちが過ぎる。

ここまで来るまでの間、女のおしゃべりを尽く無視して気持ちを固めたつもりだった。

俺は自分の気持ちを確認し、それを女に伝える為に、グロックのマガジンをわざとらしく外し、弾倉数を確認し「カチャリ」と音を立てながら再度装填する。

女はなおも、俺のそんな動作を愛想笑いを浮かべたまま見ている。

俺の子供染みた行為が効果を示さなかった事に、俺は苛立ちを覚える。