―――――アサガオ



「あっ・・・ごめん」


目の前に大きなタオルを抱えた男がたじろぎながら、アタシに謝ってきた。


『何?!・・何なの?』


「いや・・・冷えると良くないと思って・・・バスタオル」


『え?・・・あっありがとう』


アタシはいつの間にか寝ていたみたいだった。

馬鹿みたいだけど、目覚めて自分が物凄く眠たかった事を思い出した。


「ここ・・・置いとくから」


『・・・どうも』


よく見ると、バスタオルをアタシの脇に置いてそそくさと部屋を出る大男はさっきペンキ屋に仕切り戸をぶつけた大男で、ここは相変わらず車屋のジイサンの事務所だった。

アタシは少し寝ぼけたように自分の横になっていた長椅子を眺める。


『・・・アタシどのくらい寝てた?』


「ん?」


アタシの質問に車屋のジイサンは少し眼鏡をずらして腕時計を覗き込み、更に目を細めて時計の針を確認した。


「ん~・・・丸一日は寝てたかなぁ・・・ペンキ屋ならもう帰ったぞ」


『えっ?!うそっ?!』


「・・・嘘だ」


車屋のジイサンはそう言って、少しニンマリとしながら眼鏡を直し、また帳票を忙しく整理しはじめた。

 アタシは本気で憎たらしい訳じゃないけど、舌打ちをして『何なの?』と車屋のジイサンに言った。

車屋のジイサンは帳票に目をやったまま、また少しニンマリと笑った。

 アタシも車屋のジイサンの悪戯が少し嬉しくてニヤけた。


 何となくだけど、かまってもらえたみたいで少し嬉しくなった。