「階段で行くしかねえな」


毒島はエレベーターの中の鑑識に目配せしながら呟き、渋々と階段を昇り始める。


「何階だ?」


毒島は階段を数段昇った後、思い出したように今更な事を聞く。


『ん?…ああ、四階だ』


「怪我、大丈夫か?」


情けない事に俺は体が覚束なくなっていて、毒島に数段遅れて階段を昇る。

それを察してか、毒島が踊場に立ち止まり振り向きながら声を掛ける。


『少し痛む…心配されるほどの事は無いがな』


怪我と疲れで相当に体力が削られていたが、正直同世代の毒島に心配されるのは腹が立つ。

気遣いは嬉しいが、裏腹に口調は無愛想になる。


「心配なんかしてねえよ」


俺の無愛想な返答に毒島も無愛想に言葉を返す。

 息を切らしながら四階に着くと、捜査員達が花園神社の時のように慌ただしく動き回っていた。

一応に立ち止まり俺達を確認するが挨拶もする事なくまた慌ただしく動く。

俺や毒島には慣れっこの日常的な疎外感たっぷりの雰囲気だ。

 四階のフロアは俺が踏み込んだ時とは違い蛍光灯の明かりが点いていて、心なしかさっきよりも広く感じる。

床に敷き詰められた灰色のフロアマットに錆色に変色し始めた血痕が付いていて、それを鑑識が丁寧に調べていた。

『俺の血だ』と言ってやろうとしたが、息切れで言葉を発するのも億劫になりやめた。