――昭和の怪物

そんな異名を取る男が高島だ。

世界の終わりだの何だと騒がれ、蓋を開けて見りゃ、素っ頓狂ととぼけた世紀末が終わり、来年には二十一世紀が始まろうとしているのに、この御時世で義理だの人情だのと地で行っている爺さん。

俺から言わせてみたら「昭和の残り物」だ。

どうしようも無かった俺に杯をくれて、人前に出せるようにしてくれた「オヤジ」でもある爺さんだ。


『バ・・バカヤロー!!ヤナギ、何の義理で高島の爺さんなんかに相談すんだよ?!』


本当はヤナギから「高島」の名が出た事に、俺は安堵していたが、大人気なく、素直にヤナギに従わず反論する。


「高島のオジキは会長でこそ無いですし、幹部でも無いですが、虎心会の誰しもが認める方です。・・・それよりも何より、オヤジや美山のオジキのオヤジじゃないですか?!」


 高島は変わった男で、幹部になる事を嫌い、会長代理補佐なんて取って付けたような役に無理矢理収まった。

収まったと言うよりも、収められたと言う方が正しいかも知れない。

今の関東虎心会があるのも、初代会長の先代の下、昭和の極道全盛期に爺さんが活躍した事が大きい。

先代は勿論、誰しもが高島の爺さんをその働きに見合った役に収めようとしたが、世捨て人のようなあの爺さんは、それをことごとく断った。

まっそんな事よりも何よりも、爺さんの人徳は関係なしにして、ヤナギの言う通り、俺と美山の「オヤ」である。


「とにかく・・・オヤジ、明日にでも高島のオジキに相談してみて下さい」


そう言ってヤナギは、出来の悪い深夜番のウエイトレスがお冷やを持ってくるのを待たぬままスッと立ち上がった。


『オイオイ!!ヤナギ!!・・・まだ話は終わってねえぞ!!』