『しっかし薄いなぁ、ここのコーヒーは!!』
俺はヤナギの目を見ずに、コーヒーの愚痴をこぼす。
カップ越しに僅かに見えるヤナギの肩は震えていた。
恐怖で無いのは容易に察しが付く、おそらくは怒りで震えているのだろう。
「オヤジ、まさか肩代わりしたなんて言わないですよね?」
『肩代わりじゃねぇよ!美山んトコの五千万の借金が、ウチに移っただけだろうが・・・』
「ご・・五千万?!」
ヤナギは更に目を丸くして、店内に響き渡るような声を上げる。
喫煙席の角に座っていた若い客が、ビックリしてコチラに振り向く。
『バカ!!ヤナギ声がでけえよ』
「オヤジ!!何考えてるんですか?!・・しかも、よりにもよって美山のオジキのトコのなんて!!」
『満腹軒のおやじだって、ちゃんと返すって言ってんだから問題ねえよ!!』
「んな事は当たり前ですよ!!・・その前に五千万の金をどうすんですか?!ウチの組にゃ無いですよ!!美山のオジキに何て言うつもりなんですか?!」
ヤナギが何時にない剣幕でまくし立ててくる。
『・・・やっぱり無いか?』
「当たり前でしょうが!!ウチの台所はいつだって火の車なんですから!!」
『・・だよな』
一昨年辺りから韓国系の奴らが幅を利かせて、ウチの組は益々弱体化している。
若頭と言うより、殆ど経理部長と化しているヤナギは常日頃から頭を抱えていた。



