「もしかして、あの人がいいわ〜今日から私の恋人ね!とか言われるのか?」

「そうなんだよ!こっちの事情お構い無しさ、恋人がいても無理やりだよ」

もうすっかり友達同士の会話みたいなフォミル様とジークだ。

「友達指名の時は、姉達の世界も大変だな…とか対岸の火事だったのに、まさか俺達に火の粉が降りかかるとはさ。まず俺の上司で侯爵家のめっちゃ男前な次男坊をいきなり恋人指名したんだよ。もう子息連中はそれ聞いて大慌てさ。因みにその方はうちの二番目の姉と子供の時から両思い同士で許嫁。それをいきなり姉上を無視しての恋人指名だよ。侯爵家もうちも激おこだよ」

「友達もだけど、恋人なんて片恋で成り立つもんでもないだろ?」

フォミル様は苦笑いを浮かべてる。

「あの王女は何にも分かってないんだよ。全部がごっこ遊びの延長さ。結局全部がままごとだったんだ。上司に付きまとって仕事場にも乗り込んで来たり、侯爵家に押しかけたりしてやりたい放題した挙句に…事件が起こったんだ」

ごっこ遊び…なるほど、言い得て妙だわ。事件?

「うちの上司が害獣討伐に出て、左目の上を害獣に引っ掻かれる怪我をおってしまったんだ。大事には至らなかったけど、割りと深い傷で斜めに傷が残る状態になったんだ。俺達的には、その傷を見て閣下ワイルドになってカッコいい!とか思ってたんだけど、あの王女殿下はなんて言ったと思う?」 

「なんと仰ったのでしょう?」

見当もつかない…。フォミル様は怒っているような魔質を見せていた。

「顔に傷をつけたらあなたの価値が下がってしまう…だってさ」

ジークからイラッとした魔力が漂ってくる。フォミル様も思い出してまた怒っているのか魔力を上げてきた。

「うちの上司…今は義兄だけど真面目なんだよね?そのまま流してれば良かったんだけど、そんな王女殿下に噛みついちゃって…『私の顔の価値より害獣の被害を防げたほうが価値があります』って言っちゃったの。ド正論だけど…でね、王女殿下は初めて人から怒られたみたいで…癇癪おこして大暴れ。おまけに国王陛下にあることないこと吹き込んで、国王陛下が義兄を国境警備の任…要は左遷にしようとしたんだ」

「国王ともあろうものが私情で…」

ジークは憮然とした表情で腕を組んでフォミル様を見詰めている。フォミル様は苦笑いを見せている。

「俺達で王太子殿下に嘆願して間に入ってもらって、文句を言いに行ったらその左遷は取りやめになった。もうそうなるとさ、貴族の男達は恐怖しちゃったみたいで…子息連中は社交の場には出てこない。未婚の者は我先に結婚しようとする…。あ、あれ?」

私もジークも気が付いた。家の外に数人、3人くらいが突然現れた。転移魔法…高魔力保持者だ。

「マッカイリー閣下!?あ、あの義兄で…後の2人は…」

義兄!?

ジークはフォミル様との話しの途中だが玄関先に行き、扉を開けた。

「!」

ジークは開けて固まっていた。私はジークの背中越しに覗き込んで、なるほどね!と思った。

フォミル様のお姉様のご主人、フォミル様の上司のマッカイリー閣下は確かにジークに似ていた。髪色と瞳の色が一緒で、体格も同じくらい。顔はジークより男っぽい感じだ。左目にフォミル様曰く、ワイルドでカッコいい斜めに傷が入っている。

「閣下…」

フォミル様が私達の後ろから現れると、マッカイリー閣下の後ろにいたフードを被っていた男性達2人がフードを取りながら叫んだ。

「この馬鹿!何やってんだ!」

「母上から家出したって聞いたぞ!?閣下にまで手伝ってもらって今まで捜してたんだぞ!」

フードの下の顔はフォミル様そっくりの彼よりやや年嵩の人達だった。間違いなくフォミル様の上のお兄様達だ。

「家出?」

思わず不審な顔でフォミル様を顧みてしまう。

「ちがっ…家出じゃないよ!ホイッスガンデ少佐と奥方のミルフィーナ様にお会いして謝罪してぇ…それからホーエントのお祖父様にお会いして…」

「謝罪?謝罪ってなんだ?」

ギラッと義兄のマッカイリー閣下の魔力が上がった。

フォミル様はアワアワと目に見えて慌て出した。

マッカイリー閣下とお兄様2人がフォミル様を囲んだ。

フォミル様は観念したのか人を使って私を襲ったことを告白した。ご兄弟達は知らなかったのね…フォミル様は真っ青になっている。

「この馬鹿もんが!!」

マッカイリー閣下の怒号と魔力が家を震わせた。私が魔物理防御障壁を張ったのが、間一髪間に合って、家内の損壊は免れた。

「一度襲撃したけど、ミルフィーナ様も少佐も強くって…部下も怪我したし…この方法はやっぱり良くないって…」

ん?何ですって?

フォミル様は半分泣きべそをかきながらそう説明していたが…

「ちょっと待て、フォミル。今、一度って言ったか?ミルフィーナは2回狙われたんだが…」

ジークがそう説明するとフォミル様は首を横にブンブンと振った。

「いや、私は本当に一回だけだ…」

マッカイリ―閣下がジロリとフォミル様を睨んだ。

「本当か?嘘偽りないのか?」

思わずジークと顔を見合わせた。もしかしてもう1人襲撃者がいるの?

マッカイリー閣下とお兄様2人は膝を突いて一斉に頭を下げられた。

「うちの愚弟が申し訳なかった」

「いえいえ、あのこちらもケガもなかったことですし…」

と伝えると義兄のマッカイリー閣下はフワリ…と微笑んで下さった。

これは…モテますね。確かにあの王女の肩を持つ訳じゃないけれど、顔に傷がついていなければ、ものすごく綺麗な顔だったはずだ。でも私はワイルドな方がいいかな?

じゃあそろそろ帰りますか~と言ってからフォミル様は急に私の手を取った。

「私、離籍したらこちらに住んでるホーエント伯爵、母方のおじい様にお世話になる予定なんだ。こちらに越して来たら仲良くしてくれ!」

何故私の手を取って叫ぶ必要があるんだろうか…

「こらっ!フォミル、俺の嫁に許可なく触るな!」

ジークが間に入ってきて、またマッカイリー閣下が怒って…ブーエン王国の方々はやっと帰って行かれた。

「何だか謎が解けたような、また新たに分からないことが出来たような…」

ジークは頭をボリボリ掻いている。私達は取り敢えず台所の処理と、着替えなどを持って王宮に戻った。道すがらジークに聞いてみた。

「今日来られたフォミル様は嘘はついておられないと思います。魔質は濁りなく綺麗でした、同様にお兄様方も綺麗でした。やはり襲撃者はフォミル様とは別の誰か…だと思います」

ジークは顎を摩っている。

「今日のフォミルの話から推察すると…まあ、不敬を承知で言うと犯人はジャレンティア王女殿下だろうな…」

「やはり、そうでしょうか…」

ジークは私の手を取ると

「まあ決めつけはよくないな」

そう言って私を引っ張って歩き出した。