「陵ちゃ」


名前を呼ぼうとして、木の陰に誰かがいることに気づいた。


私はおもわず足を止める。


木の陰から現れたのは頬を赤く染めた可愛らしい女の子。


シューズが赤いからきっと1年生だ。


“好きです”


女の子の唇が、そう動いたように見えた。





ドクン。





胸が、痛い。



なんで。



棘が刺さったみたいに抜けない。


見たくない、


そう思うのに、その場に縫いとめられてしまったみたいに足が動かない。


これが『用事』?


知らない。


顔を赤らめて目を伏せる女の子を、


僻むような、


妬むような、


こんな気持ち、知らない。


ふと、陵ちゃんが私の方を向いた。


目が合うと同時に、私は踵を返して走り出す。


雨はだんだん激しくなって、私の体を叩きつける。


それでもいいと思った。


涙なんか雨と一緒になって流れてしまえばいい。